プロローグ
本編の最終場面でもある「覇王別記」から幕が上がる。
終幕が総ての始まりであるかのように…。
もちろん、ここで覇王を演じているのは、フォンライであり。姫は女形役者が演じている。
姫の死でカーテン閉まる。
舞台裏
演じ終えた、フォンライ達を姫が向かえる。
自分を何時になったら舞台に立たせてくれるのかと、フォンライにせがむ姫。
そんな姫を女形役者が、女では無理だと言ってからかう。
日常的に繰り返されている事でもあるのだが、その中にフォンライを間に挟んでの二人の微妙な関係が、
見て取れる。
フォンライは、子供をなだめるようにその場から退場していく。
女形役者も、長くは姫の言うことを取り合わないと言った感じで、フォンライに続いて退場していく。
入れ違いに、星が登場する。
姫と星の思い出を語る場面になる。
京劇を始めた切っ掛け、子供の頃の思い出と自分の夢。
そんな中で、姫はフォンライに対しての自分の想いを宣言する。
フォンライの誠の姫は自分しか居ないという自信。
その事に気づいては居たにせよ、星の苛立ちと落胆は隠せるものではなかった。
姉を慕っているからこそ、何時か共に舞台に立ちたいという彼の願い。
そのために、言葉に出てくるのは、姉に対する反発の言葉だった。
星退場。そんな彼の本心よりも姉として彼を戒める言葉で見送る姫。
王の店
ジャズシーン。
祖父である王の店に来ている星。
姫にどんなに戒められても、稽古場とは違う別の意味での居心地の良い世界。
この時、新しく入ったらしい、歌姫が登場する。
彼女の歌声が店内を魅了していく。
星も無意識のうちに彼女の歌に惹かれていく。
歌が終わって、日本人客らしい酔っぱらいが、歌姫に絡んでいく。
星が思わず割って入ったことで、客とのケンカになる。
彼女を庇ってのケンカであったが、この時顔に怪我を負ってしまう。
そして、この出会いが、星の運命を動かす。
稽古場 A
怪我を負って帰ってきた、星とそれを心配する姫。
知らせを聞いて、驚いてやってくる。
フォンライと、スージェイ。
怪我をした星の姿を見て、スージェイは言葉にならないものを、自らの中に感じていた。
フォンライは、役者として研鑽を積んでいるものが、顔に怪我をして戻った星に厳しい言葉を、
掛けることになる。
フォンライのなかで、師である。ウェンフーの姿とだぶったせいでもある。
星は覇王になるべき人間だと信じて、総てを教えてきたから、ウェンフーがスージェイが、
自分に教えてくれたもの総てを。
しかし、その怒りの言葉に、星は反発する。
かつて、フォンライが師にぶつけた言葉そのままに、「俺は、身替わりなんかじゃない…!!」と、
そのまま、再び稽古場を飛び出していく、星。
そんな彼を愕然と見送るフォンライ。
スージェイは、フォンライの怒りも理解はしていた。しかしその奥の長年隠されていたものが、
見えてくる予感がしていた。
稽古場 B
女形役者が、姫に稽古をつけている。
女形としての必要とされる細かな演技を指導しているのだ。
二人の姫の競い合いでもある。
そこに、スージェイとフォンライが、話しをしながら登場する。
セイは、やはり祖父ワンの所へ行ったきり戻らなかった。
フォンライは、連れ戻しに行くと言って譲らないが、父親のスージェイは、今行っても無駄であると
説明している。(彼の経験から、息子の心情は理解できた。)微妙にすれ違う二人の感情。
それを、姫と女形役者は黙って聞いていた。静かだが険悪な空気の流れる中で、ホアリェンが登場する。
セイが、自分の父親の所から帰らないことに、一番苛立ちをつのらせていた。
それを夫である、スージェイに、そしてフォンライに向けたのである。
何よりも、自分の元に帰って来ないのは、原因はフォンライだと思っているので、言葉も厳しくなる。
母親がフォンライを責め立てるので、姫は黙っていられなくなり、彼を庇って立つ格好となる。
これは、ますますホアリェンの怒りに油を注ぐ結果となる。
娘を味方に付けたフォンライをなじり、母親よりフォンライを選ぼうとする娘に、怒りに任せて手を挙げよ
うとする。それをスージェイが、止める。
ホアリェンは、驚きより大きな怒りに駆り立てられるように、退場していく。
まるで、一人で孤立してしまったように、感じながら…。
その場にいた全員に、言いしれぬ不安が広がっていった。
夜の街
本編のメイン主題歌に合わせて、セイと歌姫のデュエットの歌から、ダンスに発展させる。
大人達が心配しているのに、二人は幼い恋を楽しんでいた。
そう、この二人には、月の光は優しい物であり。未来は信じるに値する物であった。
二人は自分達のことを、話し始める。生まれや家族のこと、これから自分が何者になりたいのかという夢。
セイは、京劇を捨てる気など無かった。今はフォンライの元に戻りたくないだけ。
でも、いつか彼のような覇王役者になりたいと、力強く語って聞かせる。
歌姫は、言いあぐねていたが、自分の父親は日本人であると告白する。
しかし一度も会ったことは無いのだと、母親と二人で生きてきた事。
自分には歌うこと、母親から貰った声が、宝だと話して聞かせる。
二人の間に、他人に言ったことなど、明かしたことなど無い想いを語り合えたと言う事実が、
まことに相手を必要としているのだと言う、確信に変わっていく。
言葉もなく、改めて手を取り合い、見つめ合う二人。
そこへ、先日の日本人が、なにやら軍人らしい男を案内してやってくる。(数名の部下を連れている。)
セイの素性を知った男が、日本軍へ通報したのだ、セイを利用してフォンライを引きずりだすために。
彼等は、ワンの店に行こうとしていたが、街角でバッタリとセイと歌姫を見つける。
軍人は二人を捕らえるように部下に指示する。
二人は、夜の街を手に手を取って逃げ出していく、あてなど無いままに…。
劇場 そして夜の街へ
フォンライとスージェイのもとへ、セイが帰らないとワンの所から知らせが届く。
スージェイはためらうが、フォンライは外へと飛び出していく。嫌な物を感じながら…。
前の場面のままに、日本軍に追われるセイと歌姫。
セイを探すフォンライ。そんな彼を心配して追って来た、姫と女形役者。
お互いを探して求め合うような、ダンスシーンに、発展させる。
フォンライの心の不安。姫の想い。女形役者の苛立ちに似た焦燥感。
セイと歌姫は、次第に追いつめられていく。
舞台奥へと追いつめられた二人、暗闇の中に浮かび上がり、ストップモーションになって、
舞台前面のフォンライの、セイを呼ぶ声と重なるようにカットアウト。
スージェイ
セイの行方が判らなくなった。
日本軍に追われていたらしいことは、判っていたのだが、ワンの所ですら調べられるのは、
そこまでだった。
彼の中で、父親として不安より、言いしれぬ闇が静かに近づいて居る予感がしていた。
彼の内に潜む心の闇が、共鳴しているようでもあった。(此処にソロの歌を持ってきたい。)
そこへ、姫が日本軍人(セイを追っていた男。)を、引き止めながら入ってくる。
稽古場 C
彼は、フォンライか女形役者への面会を求めていた。丁寧さの中に、不気味な自信が見え隠れしている。
スージェイが、彼と対峙して話しをしようとするが、彼はあくまでも二人と話しをしたいと申し出る。
仕方なく、彼を稽古場へと連れて行く。
そこでは、女形役者が支度をしていた。
日本軍人と女形役者の話し合いの場面に移って行く…。
日本軍主催の舞台の用意があること、ぜひ出演して欲しいと、交渉する。
軍人に対して毅然とそれを拒否する女形役者。
プライドとプライドの対決…。その中で、女形役者が、フォンライが承諾するなら考えると言うニュアンス
の、言葉が漏れる。
日本軍人のしてやったりという、笑顔に不信感を抱きながらも、帰ってくれるように促して
やり過ごそうとする。
男は、丁寧に挨拶して、その場を去っていく。闇が迫ってきていた…。
フォンライと姫
姫がフォンライへの想いと不安を歌うソロ場面。
歌の終わる頃に、フォンライ静かに重ねて歌う、デュエットになっていく。
お互いの心の内は、理解していたが、言葉に出来ない少し切ないラブデュエットに…。
女形役者が、そんな二人を見つめていた。
思い切ったように、フォンライに話しかける、彼…。(いつもの、説明できない苛立ち。)
何でもないように、日本軍からの出演依頼をどうするつもりなのかと、確認する。
フォンライも、国を裏切る行為なので、出演を受ける気など少しもなかった。
二人で中国の京劇を守っていくことを約束する。男同士の固い絆が見て取れる。
この時姫は割ってはいることの許されない淋しさを覚えていた。
母として 女として…。
ホアリェンとスージェイが、口論している。
セイの行方が判らなくなって、彼女の苛立ちは日増しに激しくなっていた。
スージェイは、日本軍の占領下での興行に疲れていた。
二人の仲は、日々諍いの耐えない物になっていった。
すれ違う二人の気持ちを、掛け合いの歌で表現する。最終的に姫が割ってはいる。
娘の言葉には、耳を貸す余裕を見せるスージェイに、ホアリェンは、彼のなかの変わらぬ彼の女への
思慕を見て取る。激しい嫉妬…。目の前にいるのは、我が娘であるというのに…。
稽古場 D
照明が入ると、フォンライと、日本軍人の二人が話しをしている。
珍しく苛立っているフォンライと、勝ち誇ったような笑みを浮かべている日本軍人。
そう、フォンライは、出演を承諾させられていた。
念を押す、男に対して、激しい言葉で返すフォンライ。
舞台の日時を知らせる旨を丁寧に伝えて、彼はその場を去っていく。
姫が聞いていたのか、フォンライの腕をそっと取って、心配そうに見つめる。
その手をしっかりと、握りしめるしか出来ないフォンライ。
彼は、しだいに追いつめられていく。
そのまま、照明移って、女形役者が、スージェイに詰め寄っている。
フォンライが、何故出演を受けたのか、理由が知りたかった。
この時、スージェイも、まだその訳を知らなかった。
唯 考えられることは、1つしか無かった…。
上海の街 日本軍の恐怖
今や上海の街を、日本軍は我がもの顔で歩いていた。人々の怒りや嘆きは、日増しに大きくなり、
彼等に手を貸す者は、売国奴と呼ばれ、裏切り者と呼ばれていった。
日本軍と中国人達の対立と嘆きのダンスシーン。
それを象徴するように、中国側の中心は、女形役者。日本軍側は、軍人が立って対立している。
その間を、人々に追いつめられるように、フォンライが、登場して人々の非難と中傷を一身に浴びる。
立ち尽くすフォンライ…。
いつの間にか、フォンライと、女形役者のみ残っている。
稽古場 E
フォンライを問いただす、女形役者。
何故、あれ程断ると言っていた筈の出演を引き受けたのか、理由が知りたかった…。
フォンライは、明確な理由を述べようとはしなかった…。
彼への裏切りと取れるような、理由ばかり並べ立てる。(金とか地位とか、およそ似つかわしくない理由)
女形役者が、それで納得する筈は無かった、フォンライはいたたまれなくなって、その場を離れる。
取り残される、女形役者。
フォンライ
フォンライが、出演を受けた理由。
それは、セイを人質に取られたためだった。
自分の夢を引き継ぐ者。
セイを守りたい一心で、彼はあえて売国奴の汚名をも、受け入れる覚悟が、出来ていた。
モノローグから、歌ソロへと続いていく。
彼の夢は師から受け継いだもの、亡き人達の夢。引き継がれていく想いを歌にしたい。
静かに、照明落ちる。
姫の願い
姫が、父親であるスージェイに、フォンライを止めてくれるように、訴えている。
彼女は、セイの為にフォンライが、裏切り者と呼ばれることが、我慢ならなかった。
スージェイは、予想していた事でもあるし、説得しようとしても、フォンライが聞き入れる事は無いと、
承知していた。
そこに、ホアリェンが入ってくる。
フォンライの今回の行動を訝しく思っていたが、その理由がセイの存在だと知って怒りと共に、
フォンライを偽善者だと、なじる。
母と娘の埋められない、深い溝…。スージェイは、そんな二人を見守ることしか出来なかった。
ホアリェンと女形役者
ホアリェンは女形役者を、ワンの店に呼び出していた。
彼女はセイの行方が判らなくなってから、ワンの所へ戻るようになっていた。
ホアリェンはいささか酔っているようだったが、女形役者を、歓迎して話しを始める。
フォンライの行動をどう思っているのか、彼に協力する気があるのかどうか…!?
女形役者は、京劇の役者としてのプライドにかけて、協力は出来ないと答える。
ホアリェンは、協力する事を進める。意外な言葉に戸惑う女形役者。
ホアリェンは、そのまま言葉を続ける。今度の舞台を開けさせないためには、協力する振りをして、
当日にフォンライが、舞台に出れ無くすることが、一番効果的だと説明する。
驚愕する女形役者に、たたみかけるように、姫が家に戻らなくなったと、嘆いてみせる。
今度の舞台の稽古に参加して居るらしい、やっと相手役が出来ると、帰ろうとしないのだと…。
舞台上で、フォンライの隣に立つのは、自分だという意識が、彼の心を動かす。
ホアリェンの、計画を聞かせて欲しいと、彼女に申し出る。
ホアリェンは、微笑みを浮かべて、1つの薬のようなものを手渡す。
それを受け取る、女形役者。
狂気が、闇を満たしていくように、二人の姿を絞り込むように、照明消える。
開演前の楽屋
フォンライの支度を、姫が心配しながら手伝っている。
外からは、フォンライを責め立てる罵声が聞こえてくる。
不安げに今日の舞台を止めることが出来ないかと、間際になっても引き止めようとする、姫。
フォンライは、唯笑って、自分一人が責められるのなら良かったのに、結果的に姫も女形役者も、
巻き込んでしまったと、すまなそうに、あやまる…。
何処までも限りなく優しい彼の心は、このような状況でも曇ることは無かった…。
姫は、止められないと改めて悟って、部屋を出ていく。
入れ違いに、女形役者が入ってくる。
開演前で、心の整理は出来ているか、落ち着いているかとフォンライに、聞く。
フォンライは、何度同じ舞台を踏んできたのだと笑うが、やはり初めての時のような緊張感があると、
笑顔のままで、告白する。
女形役者は、そんなフォンライを見て一瞬躊躇するが、それを押し殺して。
そう思ったから、良い薬を手に入れたと、ホアリェンに渡された例の薬を、フォンライに、進める。
友の申し出を素直に受け入れるフォンライ。言葉無く見守る女形役者。
狂気の中の、運命の時…。ためらうことなく、薬を飲み干すフォンライ。
そんな彼を、襲うのは激しい喉の痛み、最初は激痛のため、叫び声をあげる。
しだいに、それもかなわなくなる中で、彼が助けを求めて呼んだのは、姫の名であった。
そして、それがフォンライの最後の声でもあったのだ。
この薬は、喉を潰し声を奪うものだった、京劇役者が声を無くすという事実、
その瞬間を目の当たりにしたという現実の中で、立ち尽くす女形役者。
それでも、彼は一時的なものだと信じていた、そして改めて、フォンライの裏切りをなじる女形役者の叫び。
そこへ、フォンライの叫びを聞いた、姫とスージェイが、駆けつけてくる。
最後に、ホアリェンがあらわれて、二度とフォンライの声は戻らない事実を、勝ち誇ったように宣言する。
彼女の狂気を含んだ笑い声が、人々を満たしていく。
声を失ったフォンライは、大勢の人々に囲まれているというのに、一人取り残されているような不安が、
広がっていった。
フォンライを、舞台中央に孤立するように、浮かび上がらせながら、緞帳降りる。
1幕 終わり。
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